行動経済学:フレーミング効果の具体例と活用事例。

Keiです。

今回は、行動経済学(または心理学)における

「フレーミング効果」

の概要、およびその活用事例について解説します。

内容的に少し難解な部分もあるかもしれませんが、この効果を理解すれば様々な面で

「無意識的に他人に操作される事」

を防ぐ事も出来ると同時に、

「他人を意図的にコントロールする事」

もできるようになってきますので、是非参考にしてください。

フレーミング効果の概要

フレーミング効果(framing effect)とは、一言で言えば

「問題の提示の仕方によって、思考や判断に不合理な影響を及ぼす現象(心理効果)」

の事を指します。

私たちは物事(文章など)を理解する時に、常に無意識的に何らかの「解釈の枠組み(フレーム)」を使っています。

個人個人で持っているフレームは異なっている為、全く同じ文章を読んだり、全く同じ出来事が起こった場合でも、その解釈の仕方(物事の捉え方)は人それぞれ異なる場合があるわけです。

「解釈の枠組み」というと若干イメージし辛いかもしれませんが、「固定概念」とか「色眼鏡」と捉えると良いかもしれません。

フレームが掛かっていない状態を

「何の色眼鏡も掛けていない状態」

だとすると、フレームが掛かっている状態というのは例えば

「青い色眼鏡を掛けている状態」

のようなものです。

例えば、「赤い物体」と「青い物体」の2種類があったとします。(ここで言う「赤い」「青い」は、いずれも色眼鏡を掛けていない状態での色を指します)

この2つの物体を、“青い色眼鏡”を掛けて見た場合、

赤い物体→紫色に見える
青い物体→色がよく分からない(見えにくい)

となると思いますが、逆に“赤い色眼鏡”を掛けて同じ2つの物体を見てみると、今度は以下のように見えると考えられます。

赤い物体→色がよく分からない(見えにくい)
青い物体→紫色に見える

色眼鏡を掛けなければどちらの場合も全く同じ「赤い物体」「青い物体」を見ているにも関わらず、違った色眼鏡を掛けると、それだけで「全く違った物の見え方」になるわけです。

人はこのように、個人個人で違った“色眼鏡(=解釈の枠組み)”を掛けて物事を捉えていますので、

・同じ物事を見ているのに全く違った意味で捉える
・同じ出来事が起こったとしても、それをすぐに認識できる人・認識できない人がいる

といった事が現実に起こる場合があるのだという事です。

フレーミングの動画事例

例えばこちらはオリンピックの動画ですが、実況者と解説者が“日本人”というフレームで話しているのが確認できます。

この試合の結果は日本側からすれば「逆転勝ち」ですが、デンマーク側からすれば「逆転負け」に他なりません。

つまり“試合結果”という観点では、日本人フレームで捉えた

「日本がデンマークに勝利した」

という文章は、デンマーク人フレームで捉えた

「デンマークが日本に敗北した」

という文章と“同じ意味”を表していると言えます。

しかし、この“文章の意味”を「文章が引き起こすイメージ(連想)」として捉えるなら、これらの文章は「全く違った意味を持つ」と言う事もできるのです。

「日本がデンマークに勝利した」と聞いて大抵の人がイメージするのは

「日本側が勝って喜んでいるイメージ」

だと思いますが、逆に「デンマークが日本に敗北した」と聞いてイメージするのは

「デンマーク側が負けて悔しがっているイメージ」

ではないでしょうか。

つまり、「結果的には“同じ事”を言っているけど、そこから連想されるイメージが全然違う場合がある」という事であり、これが

「フレームの違いによって、同じ物事を見ているにも関わらず、それを全く違った意味(イメージ)で捉えてしまう」

という事の説明にもなるわけです。

この事例だけからでも、冒頭で「フレーミング効果」の意味として述べた

「問題の提示の仕方によって、思考や判断に不合理な影響を及ぼす」

という事の意味を何となくでも理解する事ができるのではないでしょうか。

このように、あらかじめ質問や問題の提示の仕方によって回答者の「フレーム」を操作する事ができれば、論理的に同じ事を述べたとしてもその印象(イメージ)を大きく変える事ができます。

故に、問題や提案の提示の仕方(使用する単語の言葉の選択など)をフレームを意識して変えるだけで、相手の判断をある程度コントロールできる可能性も十分にあるという事です。

フレーミング効果の事例

それでは、「フレーミング効果」のその他の事例について具体的に見ていきたいと思います。

「費用フレーム」と「損失フレーム」

まずはこちらの質問に答えてみてください。

10%の確率で95ドルもらえるが、90%の確率で5ドルを失うギャンブルをやる気がありますか?

そして次に、こちらの質問に答えてみてください。

10%の確率で100ドルもらえるが、90%の確率で何ももらえないクジを5ドルで購入する気がありますか?

質問の内容をよく確認して頂ければ分かると思いますが、上記2つの質問は論理的には同じ事を言っています。

どちらも当たれば95ドルが手元に残り、外れたら5ドルを失う結果になるからです。

よって、普通の人が合理的に物事を考えた場合、2つの質問の答えは両方とも同じになるだろうと推測できます。

しかし実験の結果、“2つ目の質問だけ”に「はい」と答える人が圧倒的に多かったそうです。

これは、1つ目の質問は5ドルを「損失」として捉え、2つ目の質問は5ドルを「費用」として捉えている事が原因だと言われています。

つまり多くの人は“費用”よりも“損失”の方が圧倒的にマイナスの印象を受ける傾向があり、その為「損失」のイメージの強い1つ目の質問には「いいえ」と答える人が多くなった・・・という事です。

このように、論理的には同じ意味の質問であっても「質問の仕方が違うだけ」で大きく結果が変わってしまうケースもあります。

(ちなみに様々な実験によると、“損失”よりも“費用”と表現した方が、「ギャンブル」を受け入れやすくなる事が分かっています)

他にも、単純に「お金を出す」と述べる場合でも、

・費用
・出費
・損失
・投資

こういった表現の仕方(言葉の使い方)を変えるだけで、「その言葉から受けるイメージ」は大きく変わってくると思います。

「単なる出費」としてお金を出すのか、それとも「将来への投資」としてお金を出すのか。

「持っているお金が出ていく」という結果は同じですが、使用する単語を変えるだけでもその印象(イメージ)は全く異なるわけです。

また別の例としては、「休日割引」を逆に「平日割増」と言い換えれば、お金の損失感を高めて印象(イメージ)を悪化させる事も可能になります。(「割増」と「割引」ではお得感が全く違ってくると思います)

このような「逆の立場で捉えて言う」というのは最も分かりやすく、そして利用しやすいフレーミング効果の活用事例と言えるかもしれません。

「生存フレーム」と「死亡フレーム」

「生存」と「死亡」を言い換える事も、非常に強力なフレーミング効果をもたらします。

まずはこちらの、「肺がんの治療法としてどちらを選ぶか」という質問に関する実験の結果をご覧ください。

実験に参加した医師を2つのグループに分け、肺がんの治療法としてどちらを選ぶか訊ねた。

・5年後の生存率は高いが、短期的には危険な手術
・5年後の生存率は手術より低く、短期的には安全な放射線治療

グループの片方には生存率に関するデータ、もう一方には死亡率に関するデータを見せた。

例えば、手術の短期的な結果に関する記述は以下の通り。

・術後1ヶ月の生存率は90%です。
・術後1ヶ月の死亡率は10%です。

この結果「手術」を選んだ医師は、前者の記述では「84%」となり、後者の「50%」より圧倒的に多かった。

そして次に、「アジア病問題」と呼ばれる有名な問題に関する実験結果が以下になります。

放置すれば死者数が600人に達する見込みの「アジア病」への対策として、以下の2つのプログラムが提案された。

◆問1:どちらのプログラムを選ぶか?

プログラムA:200人が助かる。[72%]
プログラムB:確率1/3で600人が助かるが、確率3/2で1人も助からない。[28%]

◆問2:どちらのプログラムを選ぶか?

プログラムa:400人が死ぬ。[22%]
プログラムb:確率1/3で一人も死なずに済むが、確率3/2で600人が死ぬ。[78%]

※[]内は実際にプログラムを選んだ人の割合。

1つ目の肺がんの治療法の実験では「生存率」「死亡率」と表現を変えただけ、2つ目のアジア病問題の実験では「助かる」「死ぬ」と表現を変えただけです。

つまりは問題を“死亡フレーム”で捉えるか、“生存フレーム”で捉えるかという違いしか無かったわけですが、この単純な違いだけで「どちらの選択肢を選ぶか」の割合には大きな差が出る結果となりました。

この実験から判明した重要なポイントは、例えその分野に対する知識を十分に持っている「専門家」であっても、単純なフレームに影響されてしまうという事です。

臓器提供の同意率を大幅に変える「オプトイン」と「オプトアウト」

次は「臓器提供の意思表示」に関わる、“オプトイン”と“オプトアウト”の事例を挙げてみます。

実はちょっとした表示形式の違いだけで、国ごとに圧倒的な「臓器提供の同意率」の差が生まれている、という話です。

臓器提供の意思を示す為の“ドナーカード”は、日本では以下の形式になっています。(画像引用:日本臓器移植ネットワーク

平成25年度の「臓器移植に関する世論調査」によると、日本における臓器提供の同意率(臓器提供の意思がある人)の割合は「12.6%」だったそうです。

これって他の国ではどれぐらいかご存知でしょうか?

実は国によって臓器提供の同意率は大きく異なり、2003年の発表によるとヨーロッパ各国では以下のようになっています。

オーストリア:99%
スウェーデン:86%
ドイツ:12%
デンマーク:4%

デンマークにおける臓器提供の同意率がわずか4%なのに対して、オーストリアは99%。

にわかには信じがたい結果ですが、この圧倒的な同意率の差の元となっているのが、“オプトイン方式”と“オプトアウト方式”という臓器提供の意思表示に対する「質問形式の違い」になります。

「オプトイン方式(明示的同意)」は日本でも採用されている質問形式で、先に挙げたドナーカードの画像をご確認頂ければ分かる通り、

「臓器提供の意思がある場合は○で囲んでください」

という方式です。

オプトイン方式では、明示的に「臓器提供します」と意思表示しない限りは、「臓器提供しない意思がある」と見なします。

他方、「オプトアウト方式(推定同意)」はオプトイン方式とは反対に、

「臓器提供の意思が無い場合は○で囲んでください」

という方式です。

つまり、明示的に「臓器提供しません」と意思表示しない限りは「臓器提供に同意している」と見なします。

上に挙げたヨーロッパの国で言えば、オーストリアやスウェーデンは“オプトアウト方式”、ドイツやデンマークは“オプトイン方式”を採用しており、この「質問形式の違い」が臓器提供の同意率の「圧倒的な差」をもたらしているという事です。

したがって、現在の日本では臓器提供者が少ない事が一部で問題になっていますが、この問題はドナーカードに「オプトアウト方式」を採用するだけでも大きく改善する余地があると言えます。

マスメディアにおけるフレーム

次に私たちも大いに影響を受けていると思われる、「マスメディアにおけるフレーム」をご紹介します。

これは、ニュースの報道の仕方(フレームの捉え方)によっては、視聴者がその報道から受ける印象は大きく変わってくるというフレームです。

アメリカのマスコミュニケーション研究者は、そのようなフレームとして数種類を提示している。

たとえば、「紛争フレーム」の例では、アメリカ大統領選挙における共和党と民主党の争いを両陣営の紛争としてとらえて、ことさら意見が衝突する側面を強調して報道すると、受け手もそのように理解する。

また、「ヒューマン・インパクトのフレーム」は、事件の被害者などに対して共感や同情といった人間性を強調した視点からその問題を報道する際に用いられる。

引用:政治学

“ヒューマン・インパクトのフレーム”としては、「日本ユニセフ協会」のCMが分かりやすいと思います。

5歳になる前に栄養不良で亡くなる子供は毎年300万人を超えるとも言われていますが、上記のCMではその内の「1人」にフォーカスする事によって同情を上手く引き出しているわけです。

実際日本ユニセフ協会が集める寄付金は相当な金額で、2016年には「176億3,000万円」にも達している事からも、その大きな効果がうかがえます。

もしもユニセフが放送するCMの内容が、現在の「特定の1人」にフォーカスしたものから、

「毎年300万人以上の子どもたちが栄養不良で命を落としています」

といった内容に変更されれば、そのCMから受ける印象も大きく変わり、寄付金の額も減少する結果になるかもしれません。

このように、マスメディアの報道の仕方によって受け手の認識や感情は大きく影響を受け、実際に私たちもマスメディアによって意図的に操作された“フレーム”によって思考を誘導されている可能性も十分にあり得ると思います。

よって、このような「マスメディアによる思考の操作」を避ける為にも、

「本当の事を言っているのか?」
「何か隠れた事実は無いか?」
「逆の立場からニュースを捉えたらどう考えられるか?」

などについて普段から意識する癖を付けると良いかもしれません。

フレーミング効果:総括

以上、「フレーミング効果」の概要、およびその活用事例について具体的に解説しました。

私たちは常に何らかの「解釈の枠組み=フレーム」を掛けて世界を見ているという事であり、他人(マスメディアなど)からもたらされる情報などもその「フレーム」を通して受け取っています。

ただ、世の中の多くの人は

「フレームを通して物事を解釈している」

という事自体を認識していない傾向がありますので、無意識の内に他人から行動や思考の選択肢をコントロールされている可能性もあるわけです。

「自分自身のフレームを認識する」という事は、他人からの影響力を減らせるだけでなく、生活習慣の改善など「セルフコントロール」にも非常に役立てる事もできますので、

「この人(情報)はどんなフレームで物事を見ているのか?」
「自分はどんなフレームで物事を見ているのか?」

などについてなるべく普段から意識していく事をお勧めします。

また、何か問題を提示された時などに

「逆の見方(言い方)をすればどうなるか?」

を意識する事によって合理的な判断を下しやすくなりますので、そういった思考習慣を身に付ける事も非常にお勧めです。

こちらで解説している「プロスペクト理論」などとも併せて、是非日常生活やビジネスの場などで効果的に活用してみてください。

>プロスペクト理論と損失回避性:事例とマーケティングへの活用。

以上、長くなりましたが参考にして頂ければ幸いです。

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