Keiです。
今回は、行動経済学における「保有効果」と「現状維持バイアス」という心理効果について解説すると同時に、具体例とマーケティングへの活用事例もご紹介します。
保有効果も現状維持バイアスも「人間の心の動きのパターン」を説明する用語ですので、その概要を理解しておく事によって日常における様々な場面に活用していく事も可能です。
この記事ではその辺りについても言及していますので、是非あなた自身の今後の生活に役立てて頂ければと思います。
保有効果:自分のものには価値がある!
保有効果は「授かり効果(Endowment effect)」とも呼ばれ、
「自分が所有する“もの”に高い価値を感じ、それを手放す事に心理的な抵抗を覚える心理効果」
の事を指します。
つまり、
「自分の持ち物に対して愛着を持つ心理」
に対して「保有効果」という名前を付けているという事です。
あなた自身にも何か「大切にしている物」が1つはあると思いますが、それを
「無条件でその商品をこっちの新品と交換します」
と提案されたらどのように応じるでしょうか。
もちろん中には「新品ならそっちの方が良い」と交換する人もいると思いますが、「愛着があるから新品には変えたくない」と考える人も多いと思います。
商品としての価値を考えるなら明らかに「長く使ってきた物」よりも「新品の物」の方が価値が高いので、理屈の上では「無条件で新品に交換できるのにしない」というのはおかしな話です。
何故なら、
自分の物の価値 < 新品の価値
と考えているのなら「新品の商品と交換しない理由」が無いからです。
よって「新品と交換しない」という事は、
自分の物の価値 > 新品の価値
と考えているのだという事になります。
もし何も知らない第三者に対して
「中古品と新品、どちらか好きな方を選んでください」
と提案したとすれば、わざわざ中古品を選ぶ理由が無い限りは、ほぼ100%の人が新品を選択するはずです。
あなたからすれば「思い出が詰まった大切な物」「長く大事に使ってきた相棒」だったとしても、それを知らない人からすれば「ただの中古品」に他ならないからです。
このように、
「ただ持っている(保有している)だけなのに、価値が高くなったように感じる心理効果」
を「保有効果(授かり効果)」と呼びます。
言い方を変えれば、
「人間には、自分の所有物の価値を高く見積もる心理的な傾向性がある」
という事です。
保有効果に関する実験
保有効果の事例としては、以下のような行動経済学の実験が挙げられます。
実験1:携帯電話の買い替え
まずはこちらの質問に答えてみてください。
<質問1>あなたは今、Aを所有しています。Bへ買い替えますか? A:安価で基本的な機能を持つ携帯電話 |
少し考えてから、次の質問に回答してみてください。
<質問2>あなたは今、Bを所有しています。Aへ買い替えますか? A:安価で基本的な機能を持つ携帯電話 |
今度はさっきと買い替える携帯電話が逆になっています。
あなたはどのように回答したでしょうか?
普通に考えれば、<質問1>のケースと逆の回答になりそうです。
ところが、実験結果としてはどちらのケースでも回答が「現状維持」に偏る傾向がある事が分かりました。
つまり、<質問1>の状況でも<質問2>の状況でも関係なく「買い替えない」と回答する人が多かったという事です。
実験2:チョコレートとペンの交換
ジャック・クネッチは以下のようなスイス・チョコレートと高価なペンを用いたシンプルな実験を行っています。
2クラスの学生にアンケートに答えてもらう間、謝礼の品を各自の前に置いておく。片方のクラスは高価なペン、もう一方のクラスはスイス・チョコレートである。
そして実験終了時にもう1つの品物を出し、希望者はこちらと交換できますと告げる。
だが、交換を希望した学生は10%程度にすぎなかった。
ペンをもらった学生はそれを手放したがらなかったし、スイス・チョコレートでもそれは同じだった。
「物の価値(価格)」で見れば一方が他方を上回っていたとしても、保有効果によって主観的な価値が高まった結果、90%の学生は交換に応じず“現状維持”を選んだわけです。
「現状維持バイアス」と保有効果
次に、「現状維持バイアス(Status quo bias)」について解説します。
何となく想像がついているかもしれませんが、「現状維持バイアス」は「保有効果」と似通った部分があり、一般には以下のように説明されています。
大きな状況変化ではない限り、現状維持を望むバイアス。未知なもの、未体験のものを受け入れず、現状は現状のままでいたいとする心理作用のこと。
引用:現状維持バイアス
こういった説明を読むと、
「現状維持を選ぶのは悪い事である」
といった印象を受ける人もいるかもしれませんが、「種の存続」という観点から見るとこのバイアス(特定の状況で繰り返し発生する系統的なエラー)は非常に理に適っています。
もし「現状」が安心安全な状況なのであれば、あえて「未知」に飛び込んで命を危険にさらすリスクを犯す必要もないわけですから。
しかし、「不要なリスクを回避する」という意味では確かに現状維持バイアスは有効なんですが、多くの人は
「明らかに現状が改善されると思われる状況」
であってもズルズルと現状維持を選んでしまう心理的傾向を持っています。
例えば先ほどの携帯電話に関する質問。
A:安価で基本的な機能を持つ携帯電話 B:高価で豊富な機能を持つ携帯電話 |
合理的に考えればA→B(またはB→A)に買い替えた方が得になる事が分かっている状況であっても、多くの人は“現状維持”を選びます。
日常生活の例を挙げれば、あなたに「行きつけの店」があって、それ以外の店をほとんど(あるいは全く)利用しない場合などにも現状維持バイアスが働いていると言えます。
もちろん、
「いつも利用している店は信用できる」
「他の店に行って失敗したら嫌だ」
といった“信用”や、
「いつもお世話になっているから・・・」
のような“思い入れ”を理由に現状維持を選ぶ場合もあるかもしれませんが、
「こっちの店の方が良いよ」
と明確な理由を添えて説明されたとしても、「普段と違う店を利用する事」に何となく心理的な抵抗を感じる事があるのではないかと思います。
またサラリーマンの場合、例えば以下のようなケースなど「現状維持」に対して歯がゆい思いを持っている人も大勢いるかもしれません。
・時代錯誤な社風がまかり通っている ・赤字事業だと分かっているのに撤退できない ・こんな超絶ブラック企業、辞めた方が良いと分かってるんだけど・・・ |
「トレーダー」のように考える
保有効果や現状維持バイアスに抵抗するのは簡単ではありませんが、
「自分にとってどういった状況が望ましいのか?」
を客観的に見つめ直す事によって、ある程度改善していく事ができます。
ノーベル経済学賞受賞者であるダニエル・カーネマンは、保有効果を抑制する為の「トレーダーのように考える方法」として、以下のように自分自身に問い掛ける事を提案しています。
「私はAを持つ事を、代わりにBを持つ事と比べてどれほど強く望んでいるのか?」 |
是非あなたも参考にしてみてください。
マーケティングへの活用事例
ビジネスにおける保有効果の活用事例として最も分かりやすいのは、「返金保証」だと思います。
テレビショッピングを見ているとよく、
「万が一商品にご満足頂けなかった場合は、30日以内に返品頂ければご使用後でも全額返金致します!」
といった内容の保証を見かけます。
一応分かりやすい例が見つかりましたので、CM動画をご紹介しておきます。
SLEEPYのオリジナル羽毛ふとんは、ひと冬お使い頂き、万が一寒いとお感じになった場合、全額返金保証! |
こちらの商品の場合、ひと冬ずっと使い続けても、寒いと思えばそれだけで全額を返金してくれるそうです。
「返金保証」と保有効果
こういった“全額返金保証”などを見ると、
「これってちゃんと儲けはあるの?」
と心配する人もいるかもしれませんが、保有効果を考えれば何も心配する必要はありません。
むしろ、返金保証を付けて「購入者側のリスクを可能な限り減らす」事によって、結果的にはより大きな利益が期待できますので、
「返金保証を付けた方が儲かる(可能性が高い)」
と言えます。
(ただし粗悪な商品の場合には、返金保証を付ける事によって返金請求が殺到し、余計なコストが掛かる可能性もあります)
保有効果は、
「一度自分のものになったら手放しにくくなる」
という心理効果とも言えますので、ビジネスで保有効果を活用していく上では「とにかく一度商品を所有してもらう」という事が重要になってきます。
何故なら、一度その商品を手元に置いてもらう事さえできれば、その商品を手放す事に対して抵抗感を覚えてくれる可能性がある為、返品のリスクも減少させる事ができるからです。
実際のところ、保有効果に関係なく返品作業そのものにも手間が掛かりますし、「返送時の送料はお客様負担」という場合も多いですから、そういった点も含めて
返品しないメリット > 返品しないデメリット
になりさえすれば、販売者側の「返金リスク」を減らしていく事ができます。
ちなみに返金保証には、単に「商品の購入リスクを減らせる」という効果以外にも、以下のような効果も同時に期待する事ができます。
・販売商品の品質に自信を感じさせる ・実際に返金対応する事で企業への信頼感を高められる ・返金対応した顧客のリピート率を高められる |
もちろんこれらの効果は、
・実際に顧客にとって高い品質の商品を販売している事
・「形だけの返金保証」になっていない事
が大前提です。
「返金保証さえ付けておけば儲けが増える」と考えて、
・粗悪な商品を販売する ・返金保証を謳いながら返金しない ・返金条件を無意味に厳しくする |
などすれば逆効果になりますので、注意する必要があります。
以上、結局のところ「保有効果」を効果的にマーケティングに活用する上では、
「購入者側のリスクを極限まで減らし、多くの見込み客に“一旦”商品を手に取ってもらう」
という点が非常に重要になってくるという事です。
是非参考にしてください。