Keiです。
今回は、心理学における「単純接触効果(ザイアンス効果)」について、
・単純接触効果とは何か?
・ザイアンスによる単純接触効果の実験
・単純接触効果の具体例
・マーケティングへの活用方法
などを具体的に解説したいと思います。
単純接触効果に関連する論文なども紹介していますので、「深く知りたい」という場合は是非、参考にしてください。
単純接触効果(ザイアンス効果)の概要
単純接触効果は、著名な心理学者である「ロバート・ボレスワフ・ザイアンス」の研究をきっかけに広く研究テーマとして扱われるようになった事から、
「ザイアンス効果」
とも呼ばれています。
単純接触効果とは、
「ある対象への単なる(mere)接触(exposure)の繰り返しによって、その対象への好意度が高まる効果(effect)」
の事です。
一般的には「繰り返し接触したら高感度が上がる」といったイメージがあると思われる単純接触効果ですが、厳密には、
・繰り返し接触する事によって逆に好意度が下がる場合がある
・繰り返し接触しても好意度が大して変わらない「対象」がある
と、意外に複雑な部分もある事が知られています。(以下では、そういった事項についても具体的に触れていきます)
ザイアンスによる実験
ザイアンスは1968年に発表した自身の論文の中で、
・とくに意味の無い単語 ・中国語の漢字のようなシンボル (以下、それぞれ「単語」「漢字」と表記) |
を、ランダムに異なる回数(1回~25回)提示して、その提示回数によってそれぞれの単語や漢字に対する好感度がどのように変化するか調査しました。
具体的な実験の手順は割愛しますが(興味があればザイアンスの論文(※PDF)をご確認ください)、その実験結果から以下のグラフが得られました。
グラフの縦軸は「単語・漢字に対する好意度」、横軸は「単語・漢字の提示回数」です。
このグラフから、0回よりも1回、1回よりも2回、2回よりも5回・・・という風に、提示回数が増えるごとに好意度が増加している事が分かるかと思います。
ちなみに、中国語の漢字のようなシンボルはこんな字です。
この実験の参加者は当然、それぞれの漢字の意味を全く知りませんでしたが、漢字(刺激)への接触回数が増えるだけで「その漢字から受ける印象」が良くなる傾向がありました。
ただし実験で扱う刺激によっては提示回数が1回から5回に増えても好意度がとくに変化しない場合もあり、単純接触効果を確実に得る為にはある程度の「反復回数」が必要になるケースもあります。
単純接触効果が表れる刺激の種類
ザイアンスの研究論文が発表された後、単純接触効果に関する様々な実験が行われ、ザイアンスが自身の実験で扱った
・単語
・漢字
・顔写真
といった刺激以外の様々な「刺激」に対しても、単純接触効果が表れる事が実証されています。
例えば以下のような刺激が挙げられます。
・無意味なつづりの単語 ・意味のある文字 ・音 ・絵 ・写真 ・無意味な図形 ・匂い ・味覚 |
上記の内、「音楽」は多くの人にとっても馴染みがあるのではないかと思います。
最初は全く印象に残らない曲だったのに、CMなどで繰り返し流れているの聴いていたら、いつの間にか好きになっていた・・・とか。
(大ヒット映画やドラマなどの「主題歌」がヒット曲になるケースはよくあると思いますが、それもこの心理作用がある程度影響していると思います)
また他にも、CMでよく流れる商品に対して「馴染みの感覚」を抱いたり、広告やテレビなどで何度も目にする「社名」に対して好意度が上がるのも単純接触効果によるものだと言えます。
テレビのCMを見て、
「こんなよく分からないCMを流すよりも、テレビショッピングみたいな販売目的のCMの方が効果があるんじゃないの?」
と思った事がある人も多いと思いますが、そういったCMは「商品を販売する事」が目的なのではなく、繰り返し見せる事によって「商品の印象を視聴者に残す事」を目的としているのだという事です。
単純接触効果の「持続時間」
単純接触効果は、刺激によってその「持続時間」が異なるケースが存在します。
つまり、
「1回目の接触の後、2回目の接触までに長い期間が空いたとしても好意度が増加する」
という刺激もあれば、
「1回目の接触の後、すぐに2回目の接触が無いと好意度が増加しない」
という刺激もあるという事です。
例えば、メロディやトルコ語を用いた実験では「数ヶ月」もの長期間が経過しても単純接触効果が認められていますが、新奇な熱帯産フルーツ果汁飲料を用いた実験では「直後」しか効果が認められず、1週間後の時点で効果が無くなったそうです。
<参考> 上記のより詳しい内容については、こちらの論文が参考になりますので、興味があればご確認ください。 |
「意識」と単純接触効果
また単純接触効果は、人間が認識できないぐらいの短時間に刺激を与えられた場合でも表れる事が実験で実証されています。
(これは「閾下(いきか:意識していない状態)単純接触効果」と呼ばれています)
例えばこちらの筑波大学の実験(※PDF)では、わずか「50ms(0.05秒)」の刺激であっても単純接触効果が認められています。
更に興味深い実験では、胎児に同じ曲を毎日30分、3ヶ月に渡って聴かせ続けたところ、生まれた後にもその曲を好む傾向性が見られたそうです。
また他にも、ニワトリの卵を2組用意して、それぞれに違った音を継続的に聴かせる実験では、ヒナが孵化した後、卵の時に聴かせていた音を聴かせたら鳴き止んだという結果も得られています。
<余談> 私は以前、 「卓球の伊藤美誠選手のお母さんが胎教として“卓球の実況”をしていた」 という話を聞いて「意味あるの?」と思った事がありましたが、こうした実験結果を見ると「卓球に対する好意度が上がる」という効果もゼロでは無かったのかもしれません。 |
「無意識的な飽き」と「意識的な飽き」
次に、単純接触効果と「飽き」の関係について触れたいと思います。
改めてこちらのグラフをご確認ください。
よく見て頂ければ、提示回数が10回から30回まで増える時には好意度も増加していますが、40回になった時点で好意度が下がっているのが確認できると思います。
これがいわゆる「飽き」です。
何度も繰り返し同じ刺激を受ける時、ある程度までは好意度が上がるものの、過剰に刺激を受けると逆に嫌になる、というイメージと言えます。
上記は閾下単純接触効果の実験におけるグラフですが、
「自身が刺激を認識していない場合でも“飽き”が生じる」
というのは意外に感じる人も多いのではないでしょうか。
「意識的」な単純接触効果であれば、あまりにも繰り返し同じCMが流れたり、同じ音楽を聴き続けたら飽きる(嫌になる)というのは、日常生活からも馴染み深いと思いますが・・・。
「意識的な飽き」の極端な事例
「意識的な飽き」の極端なケースとしては、「あいさつの魔法。」というCMが挙げられます。
こちらは時期も悪かったんですが、東日本大震災の時に過剰に流れた結果「同じCMばかり流れてしつこい」「不快だ」などの苦情が殺到し、ACジャパンそのものへの悪印象へと繋がっています。(※参考:東日本大震災に伴う特別措置)
構造的単純接触効果
単純接触効果は必ずしも「繰り返し刺激を受けた対象そのもの」に対する好意度が上がるわけではなく、
・人工文法に従った文字列
・平均顔
のような抽象的な対象に対しても効果が表れる事が示されており、この効果はとくに
「構造的(structural)単純接触効果」
と呼ばれています。
つまり、「刺激の元に“関連する対象”」に対しても単純接触効果が見られるケースが存在するのだという事です。
分かりにくいと思いますので、論文の該当箇所を引用します。
Gordon & Holyoak(1983)は、実験参加者に人工的な文法に基づく文字列を学習させた後(参加者は規則を知らされない)、新規の文法の規則に沿う文字列と文法の規則に沿わない文字列を提示し、それらに対する好意度を測定した。
その結果、文字列は、規則に沿うもののほうが沿わないものよりも好まれたという実験結果を報告している(その他にManza & Bornstein, 1995)。
しかし、この現象は刺激を閾下提示した場合には生じないという報告もある(Newell& Bright, 2003)。
この抽象的な規則概念などに生じる単純接触効果は、特に構造的単純接触効果と呼ばれている(生駒, 2005)。
したがって、意識では把握していない“共通点”を持った別の対象に対しても単純接触効果が生じる場合があり、しかもその効果はその刺激の元となる対象をしっかり認識していないと生じない(可能性がある)という事です。
ちなみに構造的単純接触効果は、「メロディ」のような文法的かどうか分からないような刺激に対しても認められています。
これは言わば、ある特定のジャンルの音楽を聴き続けていれば、同じジャンルの別の曲に対しても“好み”が移っていくようなイメージです。
「犬好き」や「猫好き」のようなカテゴリー分けされた嗜好も、この構造化単純接触効果の影響が多少はあるかもしれません。
ある特定の種類(例えば家で飼っている、など)の犬や猫を好きになると、不特定の「犬」や「猫」が好きになる人も多いのではないでしょうか。
(もちろんこういった嗜好に関しては、心理作用以外の別の要素も関連すると思いますが・・・)
単純接触効果が生じないケース
次に、単純接触効果が生じないケースについて解説します。
単純接触効果は必ずしも「どんな場合でもあっても生じる」というわけではありません。
ザイアンスは、以下のような“ポジティブな意味の対象”と“ネガティブな意味の対象”を用いた実験を行っています。
<1:人物> ・有名な科学者 ・凶悪な犯罪者 <2:単語> |
実験の結果、人物では“有名な科学者”の場合のみ単純接触効果が認められ、“凶悪な犯罪者”では効果が認められませんでした。
また単語では“ネガティブな意味の単語”の場合、接触回数が増加するに従って逆に好意度が減少する事が示されています。
これらの結果から、刺激の外見(=見た目)に関係なく、その“意味”がネガティブな場合には単純接触効果は生じないと考えられています。
<補足> “花束”のような美的印象や感情を喚起しやすい対象の場合でも、単純接触効果が生じにくい可能性が示唆されています。 |
ちなみに“刺激の第一印象”(例えば外見がブサイクとか美形とか)は単純接触効果には大して影響を与えない事が確認されています。
なので、
「外見が悪いから、繰り返し顔を見せたら逆に印象が悪くなるんじゃないか」
といった心配はとくに必要ありません。
(ただし、話す内容や態度などによってその「意味(人柄)」がネガティブなものになれば、接触回数に応じて好意度が減少する可能性があります)
単純接触効果が生じる理由
単純接触効果は多少の個人差はあるものの、基本的には誰にでも同じように生じる効果です。
「何故、単純接触効果が生じるのか?」については、こちらのザイアンスの主張が分かりやすいと思います。
「反復的な接触は、生命体と周囲の環境(生命体がいるかいないかを問わない)との関係において有利に働く。
それによって、この生命体は安全な物体や生息環境と、そうでないものとを区別できるようになる。
これは、社会とのつながりの最もプリミティブな形と言えるだろう。
したがって単純接触効果は、社会的組織や集団の基礎を形成するものであり、心理的・社会的安定性の基盤となる」
これは現代人にとっては想像しにくいですが、原始時代の人類にとっては
「その刺激(他の人間、動物、植物など)に馴染みがあるかどうか」
が文字通り死活問題だったと考えられます。
故に、「馴染みのある事(=流暢性の高い事)」の処理速度が自動的に高まれば、より「馴染みのない事(=流暢性の低い事)」へと注意を向けられるようになり、生存率の向上に繋がります。
単純接触効果によって自分の周囲の“安全”と“安全かどうか分からないもの”を半ば自動的に区分する事によって、危険に対して迅速に対処(反応)する事ができるのだという事です。
<補足> 単純接触効果が表れる理由として、 「知覚的流暢性誤帰属説(misattribution of perceptual fluency)」 という非常に分かりにくい名前の説が挙げられる事もありますが、最近では「この理論と矛盾するケースが存在する」という理由から、単純接触効果を説明する理論として妥当かどうか微妙な判断を受けているようです。 詳しく説明すると長くなるので今回の話では割愛しますが、もし更に興味があれば調べてみてください。 |
マーケティングへの活用
それでは理論的な話はここまでにして、最後に単純接触効果のマーケティングへの活用について解説したいと思います。
と言っても「CMを何回も繰り返し流す」とか、「人に何度も会う」といった方法はすでに多くの人が認識しているはずです。
よってそれ以外の視点から、以下の方法について解説していきます。
1. 名前に対する印象を強化する 2. 主張を繰り返す 3. 「単語の意味」を意識する |
1:名前に対する印象を強化する
ネットビジネスで活用できる最も簡単な方法としては、
「(毎回)名乗る」
という方法が考えられます。
「名乗る」というのは非常にシンプルな方法ですが、単純接触効果を考えれば何度もブログを訪問してくれるリピーターであれば、自然と好意度が上がる効果を期待する事ができます。
ただし注意すべきポイントが1点。
先にも述べたように、単純接触効果はその刺激の「意味内容」によってその効果が変わってきます。
よって、例えば「Kei」という名前を目にした人が、そのブログ記事を読んで
「タメになった!」
と感じた場合には、繰り返し目にする効果もポジティブな方向に働きますが、もし記事を読んだ時点で「役に立たない」と思った場合には、逆にその名前に対してネガティブな単純接触効果が生じる可能性があります。
つまり、何度も目にする事によって逆に好意度が減少する可能性があるという事です。
したがって、名乗る場合には必ず「見込み客に(コンテンツなどで)ポジティブな影響を与える事」を意識していく事が重要になってきます。
2:主張を繰り返す
これは、
「主張の信頼性・説得力を高める為に、大事な主張は“最低2回”は繰り返す」
という事です。(理想的には“3回”とも言われます)
主張の繰り返しに関しては恐らく
・記憶(印象)の残りやすさ
・構造化単純接触効果
の両面からのアプローチという事になると考えられますが、
「同じ意味の主張を、切り口を変えながら繰り返す」
というのは非常に効果的ですので、何か文章を書いたり人を説得したい時には是非意識する事をお勧めします。
(当然、「全く同じ文章」を繰り返した場合には読み手がその文章に対して「違和感」を覚えてしまいますので、主張の切り口は変えていくべきです)
<補足> ブログ記事で同じ主張を繰り返す場合には、とくに「繰り返し」を意識しなくても、 1. 記事の概要 のそれぞれの段階で主張を自然に繰り返していけばOKです。 |
3:使用する単語の「意味内容」を意識する
何か文章を作成する際、その文章中に使用する“単語”を意図的に操作する事によって、
「読み手がその文章から受ける印象」
もある程度コントロールできると考えられます。
これは先に解説した、
「“ポジティブな意味の単語”と“ネガティブな意味の単語”」
の実験を考えてみれば分かりやすいです。
ポジティブな意味の単語:繰り返し見れば好意度が上がる ネガティブな意味の単語:繰り返し見れば好意度が下がる |
故に、文章中に相手にとってネガティブな意味の単語(死、絶望、奴隷、など)を繰り返し用いれば、その文章から受ける“感情的な印象”もネガティブな方向に持っていく事ができる可能性がありますし、その逆も言えます。
もし「読み手の感情をこういう方向に持っていきたい」という狙いがあるなら、こういった「単語の使い方」についても注意してみてください。
総括
長くなりましたので、これまでに解説した内容をまとめます。
<効果の概要> ・単純接触効果とは「ある対象への単なる接触によって、その対象への好意度が高まる効果」である。 <単純接触効果が生じる刺激の例>
<閾下単純接触効果> <効果の持続時間> ・単純接触効果には「持続時間」があり、数ヶ月後でも効果が得られる刺激(メロディなど)もあれば、直後でなければ効果が得られない刺激(新奇な味の果物ジュースなど)もある。 <飽き> <構造化単純化接触効果> <刺激の「意味内容」と単純接触効果> ・単純接触効果は刺激の「意味内容」によって得られる効果が変わる場合がある。 <マーケティングへの活用方法>
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以上、長くなりましたが参考になれば幸いです。
興味があれば、こちらの記事も併せて目を通してみてください。
>プロスペクト理論と損失回避性:事例とマーケティングへの活用。 |