ローボール・テクニックの具体例とフット・イン・ザ・ドアとの違い。

Keiです。

今回は、心理学を応用した「ローボール・テクニック」という手法について、

・ローボール・テクニックの概要
・ローボール・テクニックの使用例
・ローボール・テクニックへの対処法
・「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」との違い

などの内容を具体的に解説していきたいと思います。

ローボール・テクニックの概要

「ローボール・テクニック(low-ball technique)」は、何らかの取引において、

「取引相手に好条件を提示し、その取引を承諾させた後で、その好条件を取り除く(=無かった事にする)」

という手法です。

「ローボール・テクニック」という名前は、いきなり投げたら捕球できないような「高いボール(high ball)」であっても、「低いボール(low ball)」から徐々に高さを上げていけば捕球しやすくなるという事に由来します。

つまり、こういう事です。

高いボール=元々承諾させたかった取引
低いボール=架空の好条件を付加して承諾しやすくした取引

ローボール・テクニックは、

1. 特典(=好条件)を付加した取引を持ち掛ける
2. その取引を一旦承諾させる
3. 付加していた「特典を除去」する

といった手法の流れから、「特典除去法」とも呼ばれている他、

「相手にとって都合の悪い条件を隠しておいて、取引を承諾させた上で、後になってからその条件を持ち出す」

という形でも利用できる手法である事から、「承諾先取要請法」という名前も付けられています。

冷静に考えれば、

「後で条件が悪くなったんなら、その取引自体を反故にすれば良いんじゃないの?」

と思うかもしれませんが、

「人は自分が一度決定した事に対して責任を取ろうとする」

という心理的な傾向(=一貫性の原理)があると言われていますので、後になって取引条件が悪化した場合でも、

「まあ一回受け入れちゃったし、それでも良いか・・・」

と、ついついその取引を受け入れてしまう人も少なくありません。

<補足>
「一貫性の原理」の詳細は以下の記事で解説していますので、興味があればこちらも参考にしてください。

>心理学:一貫性の原理と、そのビジネスへの応用について。

チャルディーニによる実験

ローボール・テクニックの有効性は、アメリカの心理学者ロバート・B・チャルディーニによる以下の実験でも明らかになっています。

<実験>
チャルディーニは学生(被験者)に対して頼み事をし、その承諾率を調べた。

条件1:「研究の為に7時に大学に来てくれないか?」と依頼する。
条件2:「研究に協力してくれないか?」と依頼し、承諾後に「実は研究は7時からなんだ」と付け加える。

条件1では依頼に応じた学生は「30%」だったのに対し、条件2では「56%」の学生が依頼に応じる結果となった。

ローボール・テクニックを使えばこのように、普通に頼めば断られるような依頼であっても、一旦相手の承諾を引き出す事さえできれば、最終的に2倍近い承諾率を引き出せる可能性があるのです。

ローボール・テクニックの具体例

ローボール・テクニックの実際の使用例を、身近なものも含めていくつかご紹介します。

ビジネスにおける具体例

店舗ビジネスの場面では、「業界最安値」や「全品50%OFF」などのような「のぼり」を立て、

「徹底した“価格の安さ”のアピールによって、とにかく客を店内に引き込む」

というテクニックがよく用いられています。

客を一旦店内に引き込む事さえできれば、実際には

・「業界最安値」なのはごく一部の商品だけだった
・全品50%OFFなのは「専用の棚の商品」だけだった

という場合でも、「折角だから」という理由で商品を購入してもらえる可能性が出てくるからです。

また他にも、「最安値」の商品を探して購入しようとしたは良いものの、結局その価格では必要な機能が足りず、「オプション」を色々と追加購入する羽目になった・・・といった経験がある人も多いと思います。

(私はパソコンで似たような事をした経験が何度もあります)

このような、

「最初は安く済ませようと思っていたのに、結果的には大して安くならなかった」

というケースの多くも、

「まず先に“価格の安さ”という好条件を提示し、後で他の必要な条件を提示する」

というローボール・テクニックを受けた結果だと考えられます。

恋愛における具体例

例えば意中の相手をデートに誘いたい場合、以下のような使用法が考えられます。(※Cさんは協力者です)

A:「もし良かったら今度Cさんも交えて一緒に遊びに行かない?」
B:「うーん・・・(一緒に遊ぶ程の仲じゃないような・・・)」
A:「それだったら食事でもどう?」
B:「それなら大丈夫です(3人ならまあ良いかな・・・)」
A:「じゃあ目ぼしい店探して予約しとくね」

〜食事前日(or当日)〜

A:「ごめん! Cさんから急に予定が入ったって連絡があったんだけど、今から予約キャンセルするとキャンセル料掛かっちゃうから2人でも大丈夫?」
B:「え、はい・・・(本当は気が進まないけど・・・)」

ローボール・テクニックの注意点

以上のように、ローボール・テクニックは

・相手にとって受け入れやすい(あるいは得になる)条件を提示する
・取引の承諾後、その条件を除去する

という簡潔なプロセスで実行する事ができる上、非常に「強力」な技法ですので、ビジネスや恋愛に限らず日常のあらゆる場面で活用する事ができます。

ただしローボール・テクニックは、

「相手にとって都合の悪い条件を“意図的に”隠しておく事」

が前提になってきますので、当然その使い方によっては「騙された」と感じる人が出てくる可能性も否定できません。

したがって、このテクニックは単独で用いるよりは、他の心理テクニック(ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックなど)と併せて複合的に用いた方が効果的だと考えられます。

また、ローボール・テクニックを単独で用いる場合には、相手に「騙された」と思われないようにする為にも、

・「相手にとって都合の良い条件」を除去しなければならなかった理由
・「相手にとって都合の悪い条件」を後に提示しなければならなった理由

などの「相手が納得できるだけの明確な理由」がほぼ“必須”だと思います。

結局のところ、ローボール・テクニックは「結果的に意図せずそうなってしまった」という場合を除き、バレた時に自分自身の「信用」を失う結果になる事はまず間違いありません。

よって私は、基本的にはローボール・テクニックは利用せず、その「対処法」を学ぶに留めておく事をお勧めします。

ローボール・テクニックへの対処法

ローボール・テクニックに対処する一番の方法は、「そのテクニックを受ける状況そのものを回避する事」に他なりませんが、それは現実には極めて困難だと思います。

というのも、何らかの取引を持ちかけられた状況において、

「その取引における“全ての条件”が開示されているか否か」

を完全に判断する事は実質的に不可能に近いからです。

故に、ローボール・テクニックへの対処法としては、

・特典除去法(好条件を提示し、後で削除する)
・承諾先取要請法(承諾を先取りし、後で悪条件を開示する)

を実際に「受けた後」の状況において、

「もし最初に全ての条件を知っていたとしたら、自分はその取引を承諾しただろうか?」

と自分に問いかけた上で、冷静に判断する事が重要だと思います。

取引を一旦受け入れてしまった後の状況では、

「今更断ったら、相手に嫌な思いをさせる事になるんじゃないか?」
「一回受け入れてしまったんだから、ちょっとぐらい譲歩しても良いんじゃないか?」

といった事を気にしがちだと思いますが、ローボール・テクニックに適切に対処する為には、こうした感情面を“あえて”無視し、合理的な判断を下すようにしてください。

「自己中心的」に考える

また、相手がローボール・テクニックにおいて「もっともらしい理由」を持ち出すなどしてきた場合には、

「相手は本当の事を言っているのか?」

についても冷静に判断していく必要があります。

例えば先に挙げた恋愛の例であれば、Aさんは「今キャンセルするとキャンセル料が掛かるから・・・」という理由を持ち出していましたが、こういったケースにおいては、

・レストラン側でキャンセル料に関する規定はあるのか?
・そもそも、Cさんはキャンセル料を支払ったのか?
・キャンセル料を支払う義務は本当にあるのか?

などについて疑いを持つ事が、テクニックを回避する上では効果的です。

以上の「ローボール・テクニックへの対処法」を一言でまとめるなら、

「自分にとって不都合な取引に対しては、ある程度“自己中心的な対応”を採った方が良い」

とも言えます。

「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」との違い

このローボール・テクニックと似た技法に、「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」があります。

フット・イン・ザ・ドア・テクニックは、

「まず相手が承諾しやすい要求を受け入れさせ、徐々にその要求を大きくしていく」

という心理テクニックであり、ローボール・テクニックと同じく「一貫性の原理(=自分の行動に一貫性を持たせようとする心理傾向)」を利用した技法です。

<補足>
「フット・インザ・ドア・テクニック」の詳細については、以下の記事を参考にしてください。

>フット・イン・ザ・ドア・テクニックの4つのポイントと活用事例。

ローボール・テクニックとフット・イン・ザ・ドア・テクニックは共に「一貫性の原理」を応用した技法であるという点では共通していますが、それぞれ以下のように明確な違いがあります。

ローボール・テクニック:大きな取引を承諾させる為に、好条件の取引だと「見せかける」
フット・イン・ザ・ドア・テクニック:大きな取引を承諾させる為に、「より小さな取引」を承諾させる

どちらのテクニックも期待できる結果としては、

「本来なら承諾を得られなかった取引を成立させられる可能性がある」

という同じものですが、ローボール・テクニックは結果的には相手を「騙す」事にも繋がりかねない一方、フット・イン・ザ・ドア・テクニックは

「小さな要求を段階的に引き上げていく」

というものである事から、ローボール・テクニックとは違い取引相手が「騙された」と感じるリスクは低いと考えられます。

何故なら、フット・イン・ザ・ドア・テクニックの場合は「1つ1つの取引」が1回のやり取りで完結しており、

「承諾を得た後になって初めて“本当の条件”を開示する」

という事が基本的には無いからです。

そのため、「何か大きな要求を受け入れさせたい」という場合には、相手の信頼を失うリスクのあるローボール・テクニックよりは、フット・イン・ザ・ドア・テクニックの方が優位性があると思います。

総括

以上の内容をまとめます。

<テクニックの概要>

・ローボール・テクニック(low-ball technique)とは「相手が受け入れやすい取引を承諾させた後で、その取引の本当の条件を持ち出す」という心理テクニックである。

・ローボール・テクニックは「特典除去法」や「承諾先取要請法」とも呼ばれ、それぞれ以下のように用いられる。

特典除去法:好条件に見せかけた取引を承諾させ、後でその好条件を「無かった事」にする
承諾先取要請法:好条件に見せかけた取引を承諾させ、後で「隠していた悪条件」を持ち出す

<対処法>

・その取引における「全ての条件」が判明した時点で、「最初からその条件が含まれていた想定すれば、自分はその取引を承諾しただろうか?」と自問自答する。
 →相手に「本当の条件を隠していたもっともらしい理由」があった場合でも、“その理由が本当かどうか”を冷静に判断した上で、ある程度「自己中心的」に決断した方が良い。

<フット・イン・ザ・ドア・テクニックとの違い>

ローボール・テクニック:大きな取引を承諾させる為に、好条件の取引だと「見せかける」
フット・イン・ザ・ドア・テクニック:大きな取引を承諾させる為に、「より小さな取引」を承諾させる

 →ローボール・テクニックよりも、フット・イン・ザ・ドア・テクニックの方が取引相手に「騙された」と思われるリスクは低い。

ローボール・テクニックは「最終的には全ての条件を開示する事」を前提とした手法ですので、まだある意味「良心的」ですが、詐欺師などの場合は

「最後まで都合の悪い条件を隠す(=開示しない)」

という手法を採ってくる可能性もあります。

よって、こういったテクニックの被害者にならない為にも、

「自分にとって“美味い話”は、勝手に向こうからはまずやって来ない」

という事は普段から意識しておいた方がいいと思います。

(美味い話を持ち出すのは、それが「自分にとって美味い話だから」である場合がほとんどです)

ニュースを見ていても、

「儲かる話だと思って受けてみたら、後で詐欺だと判明した」

という事は実際によくありますので、なるべく「自分で調べて、自分で考える習慣」は付けておいた方が良いですね。

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